2001年インド西部Gujarat地震に伴う地変と震源域の活断層

 

佐藤比呂志(東大震研)

中田 高(広島大学)

今泉俊文(山梨大学)

吉岡敏和 (産総研 活断層研究センター)

 

 インド亜大陸は安定地塊というイメージが一般的ではあるが,大陸と言えども 剛体ではない.今回のグジャラート地震の震源域は,インド亜大陸がアフリカ・南極大陸から分離・移動する際に形成された東西にのびるリフト系内に位置し,リフト内に はジュラ紀〜白亜紀の陸成〜浅海性の堆積層が分布する.これらの堆積岩はインド大陸のユーラシア大陸への衝突・付加プロセスの中で短縮変形を被り,正断層から逆断層への反転運動によって隆起し,現在では山地〜丘陵をなしている.このような短縮変形は現在も継続しており,1819年カッチ地震(M7.8)・1956年アンジャール地震(M7)などの大地震が発生している.また,震源域周辺では被害域に近接したカッチ・メインランド断層や,その北方40kmに位置するアイランド・ベルト断層など,東西走向のいくつかの活断層が推定されている.

 観測計器のデータがない過去の地震を明らかにするためには,地表に現れた 地震断層(活断層)をもとにその地震像を明らかにしていく必要があるが,このためには地表の地震断層の性状と震源断層の破壊過程や規模などの関係を,より深く理解することが重要な課題となっている.大規模な内陸地震の発生は不幸な現実ではあるが,一面ではこのような課題の解明にとって重要な機会を与えてくれる.グジャラート地震はその規模や震源の深さ,また既存の活断層が知られていることから,地表地震断層が出現している可能性が高いと判断して,現地において5日間(2月28日〜3月4日)の調査を行った.調査内容は,カッチ・メインランド断層周辺での小型航空機を使用した空中からの観察と,地上における地変・変動地形調査,さらにすでに応用地質鰍フ調査チームによって報告がなされていた推定活断層沿いの亀裂・プレッシャーリッジについてのトレンチ掘削を含む調査である.

 地上および空中からの調査では,液状化と関連した亀裂以外の地表地震断層 と特定できる断層は見いだせなかった.液状化は広範に分布しており,カッチ・メインランド断層北方の平原地域でも大規模な液状化が発生していた.主として衛星写真から活断層と推定されていたカッチ・メインランド断層については,地表踏査の結果,山麓部の段丘面を累積的に変位させた活断層の存在が確認されたが,今回の地震の際には活動しなかったことが明らかになった.

 ブージの東北東21kmのブダモラ村からモルガル村にかけては,幅数100m, 長さ約1kmにわたって地震に伴って形成された亀裂やプレッシャーリッジが広がる(図1).これらの地変が見られた場所は,推定された活断層の直上にあたるため,亀裂群の詳細なマッピングとプレッシャーリッジについてのトレンチ調査を実施した.この地変は,ごくわずかに北に傾斜する斜面に生じたもので,南側に発達する無数の開口割れ目とその北に東西方向に直線的に延びる直線状の高まりからなる.この高まりを横切ってトレンチを掘削し,断面を観察した.地表から約1mの地層が,図2の右側から左側へ乗り上がるように移動しており,そこに高まりを作っていることが分かる.これらの短縮変形量と南側の開口割れ目の伸張量はほぼ等しく,これらの地変は大局的には緩やかに北に傾斜する斜面上の表層近傍で発生した地滑りによるものと理解できる.トレンチ底付近では乾燥地形特有の石灰質で充填された砂層が見られ,地下数メートルで斜面に平行な不透水層構成されている可能性が高い.この層に載る帯水層が強い振動によって,水平移動したものと判断できる.

 余震観測チームの報告から判断して,グジャラート地震の震源断層はカッチ・メインランド断層ではなく,その北方にほぼ平行するアイランド・ベルト断層の地下延長部で発生した可能性が高い.地質学的にはこの断層が中生代の正断層として形成されたことを反映して,地震学的に求められている断層面も高角である.アイランド・ベルト断層など北部の断層については,パキスタンとの国境周辺で厳しい航空管制が行われており,また砂漠地帯であるため,今回,調査することはできなかった.しかしながら,現在までの情報では明瞭な地震断層の報告はない.大規模な地震ではあったが,破壊を生じた断層面が深く,地表まで断層が突き抜けなかった可能性が高い.

 

図1. ブダモラ村からモルガル村にかけて直線上に伸びる地震に伴って形成された亀裂・プレッシャーリッジ群(図1).黒で示した領域でトレンチ掘削を行った.

図2. 地震に伴って形成された短縮性構造のトレンチ断面.断面の場所は,図1のAに示した.小規模な断層折れ曲がり褶曲をなし,幅の狭い高まりをなしている.