被害調査班速報

 

村上ひとみ、久田嘉章、林 康裕、澤田純男、目黒公郎、K. Venkataramana 、S. Pareek、

上半文昭、P. K. Ramancharla、濱田政則、D. K. Paul, R. N. Dubey, A. Kumar

 

調査概要

 本地震の名称は、Gujarat州、Kachchh地方(KutchまたはKutchhとも表記する)、あるいは大きな被害が注目されたBhuj市などの地名からGujarat地震、Kachchh地震、Bhuj地震などと呼ばれている。今回の地震による被害は、死者2万名、負傷者16万6千名(うち重傷2万717名)、全壊家屋37万戸、半壊家屋92万戸、被災総額2126億ルピー(約6千億円)という大災害となっている(インド政府発表3月20日現在1))。

 被害調査班はRoorkee大学地震工学部(学部長Prof. K. K. Paul)にカウンターパートを依頼して3名が参加、日本側10名(団長:山口大学・村上)と併せて13名という大チームとなった。余震観測班速報の図1に示すように、まず3月5日(及び10日)に震央距離約250 kmにも関わらず大きな被害を生じたAhmedabad市で建物被害調査や建物・地盤の微動観測を行い、同時にGujarat州の州都Gandhinagarでの政府対応などの情報収集を行った。その後、3月6〜9日に震源地であるKachchh地方を中心とした被害調査を実施した。主な調査内容は、Bhuj市や大被害を受けたその周辺の市・村における各種構造物の被害調査、MSK震度調査、アンケート震度調査、Gandhidham市における建物・地盤の微動観測及び全戸調査(約160棟)、建築材料の収集、などである。震央域では余震で被災する危険を避けるため、テント等野営道具を持参し、日本赤十字の紹介により国際赤十字のキャンプ村に滞在させて頂くことができた。現地調査の間は4WD自動車4台(運転手付レンタカー)により移動した。その後、11日に首都Delhiの政府機関、及びRoorkee大学を訪問し、12日にデリーを発ち13日に帰国した。

 なお、濱田政則(早稲田大学)は土木学会調査チームを率いて3月15日〜24日まで、地震動、地盤災害、土木構造物・ライフライン被害の調査にあたった。

 

地震危険度・地震動

 地震活動及び歴史地震をもとにインド政府はSeismic Zonation Mapを作成しており、Kachchh地方は最も危険度の高いZone 5に分類されている1)。ちなみにAhmedabad市はZone 3である。Kachchh地方では1819年にGreat Rann of Kachchh earthquake (Mw=7.8)が発生した。

 インドにおける強震観測はRoorkee大学やインド気象局で行われている。但し観測点はヒマラヤ地方が中心であり、今回の地震では震源地に最も近い観測点はRoorkee大学によるAhmedabad市のみであった。加速度強震計は市内のPassport Office Buildingの裏にある9階建RC造アパート内に設置されており、最大加速度は地階で約100 gal、最上階で約 300 gal程度である2)

 今回の調査では、震源地における地震動強さを把握するため、MSK震度調査とアンケート震度調査の2種の震度調査を実施した。MSK震度は、Euro Macroseismic Scale 1998 3)に習い、建物をvulnerabilityにより3種の組積造、およびRC、S、木造と分類し、訪問した市や村で各種別建物の平均被災度(Grade 1から5)を記録し、これらのデータから震度を判定する。またアンケート震度は、MSK震度階に基づき作成された調査票(グジャラーティ語)を訪問した市や村で配布して実施した。現在、データを解析中であり、結果は近々報告書やホームページ等4) で公表する予定である。

 

被害分布

 Gujarat州の中では人的被害の92%がKachchh地方で発生した。インドでは耐震規定があるものの強制でないため、新しい公共建築物を除いて殆ど考慮されることはない。Ahmedabad市(周辺を含めて人口580万人)では、ピロティ形式の中低層(約60棟)及び高層RC造(3棟)に被害が集中し、約750名の方が亡くなっている。

 表1に震源地であるKachchh地方の被害統計を示す。RC造被害に加え、Kuchcha(アドベ壁や藁葺きなど非恒久住宅)やPucca(レンガ造、組積造など恒久住宅)と呼ばれる脆弱な伝統的な組積造家屋に被害が集中し、1万8千名以上の死亡者が出ている。特に震源地に近いBhachau市とその周辺地域(Taluka)で最も被災度が高く、ここだけで全死者数の3分の1以上に相当する約7千4百名の方が亡くなり、死亡率が6.4%に達している(図1)1)

 

表1 Kachchh地方の郡別被害統計


 


鉄筋コンクリート造建物の被害

 RCはフレーム構造で、一般に壁が無補強のレンガやコンクリートブロックなどのインフィルで構成されている。まずAhmedabad市の高層RCアパートを例に被害を概観する。写真1、2は、地上ピロティ階+10階建のアパートであり(Mansi Complex)、写真に見える高層アパートの手前側にある同タイプのアパートが完全崩壊した。Ahmedabad市にはFloor Surface Index(FSI)と呼ばれる基準階の床面積制限があるが、2階以上には適用されない5)。このため片持ち梁で2階以上部分を外側にせり出し、トップへヴィな構造となっている。激震地であるBhuj市でも、RC造では1階のピロティ階の被害が目立った(写真3、4)。ピロティでないRC造の被害は一般に小さかったが、大きな被害を受けているRC造では材料の不良、柱頭の強度不足及び配筋不良などが目立った。

Gandhidhamは 1950年代に造られた新しい街で、各種のRC造が存在する。また被害の大きな街区と小さな街区とが明瞭に分かれていた。このため建物と地盤の常時微動観測を行うとともに、約160棟の全数調査を行った。また材料実験を行うため、各種の建築材料も入手した。同様にAhmedabad市では、市の南側に被害が集中していたため、各地で建物と地盤の常時微動観測を実施している。現在、得られたデータを整理・解析中であり、近々これらの成果は報告書やホームページ等4) で公表する予定である。

 

組積造建物の被害

 今回の地震で圧倒的に被害が多かった建物は、Bhuj市やAnjar市などで城壁に囲まれた旧市街地や周辺の村に多い伝統的な組積造であった(写真5、6)。壁は不整形な自然石を粘土モルタルで積み上げており、屋根が木造で水平面の拘束力がないため、地震に極めて脆弱な建物である。一方、整形した石やコンクリートブロックをセメントモルタルで積み上げ、さらに床や屋根がRC造の家屋は、無補強ながらはるかに強い抵抗力を示していた。宮殿や城壁などの歴史的建造物は整形した石を石灰モルタルで固めており、一般家屋に比べて被害は比較的軽微であった。

 

おわりに

 被災地では全壊家屋だけでも37万戸に達し、約185万人が家を失った。Gujarat州対策本部によれば、雨期に入る前に最小限の仮設シェルターを与える必要があり、その緊急対策を進めているとのことである。被災町村を、「養子(adoption)」という形で復興支援してくれる国内外の組織を募っている6)。被災地の生活・経済が少しでも早く再建されることを願っている。

 Kachchh地方では最も高い地震危険度が想定されながら耐震規定が実施されず、特に地震に殆ど抵抗力のない伝統的な組積造(Kuchcha、Pucca)が軒並み倒壊し、人的被害をさらに大きくした。今後、Gujarat州を皮切りに耐震規定の強制導入を検討中と聞いている。今回の痛切な教訓が生かされて防災対策の進むことを願うばかりである。

 調査に際し京都大学・中島正愛氏を始め、地震防災フロンティア研究センター・新井洋氏、応用地質・篠原秀明氏ら多くの方々にご協力を頂きました。また被災地の方々には、多大な被害を受けたにもかかわらず快く調査に応じて頂きました。心からお悔みを申し上げるとともに、記して感謝致します。

参考文献・資料

1)     Government of India, http://www.ndmindia.nic.in/eq2001/eq2001.html

2)     Roorkee University, http://vision.rurk.iu.ernet.in/depts/earthquake/bhuj/

3) European Macroseismic Scale 1998 (Editor G. Grunthal), 1998

4) http://kouzou.cc.kogakuin.ac.jp/Saigai/

5) A.Goyal他、http://www.civil.iitb.ernet.in/BhujEarthquake/Report1.htm

6) Gujarat State Disaster Management Authority、http://www.gujaratindia.com/

 

写真1(左):Mansi Complex(写真に見える高層アパートと同タイプの高層棟が手前にあったが、完全に崩壊した)

写真2(右):倒壊した高層アパートの1階柱

 

写真3(左):5階RC造・ピロティの崩壊(手前の棟のピロティのみ生き残り、左と奥の棟のピロティが崩壊。Bhujにて)

写真4(右):6階RC造・ピロティの崩壊(Bhujにて)

 

写真5:建物の屋上から見た光景(三角屋根の伝統的な組積造家屋が大被害を受けているのに対し、RC屋根の新しい組積造は比較的被害が小さい。Bhujにて)

 

写真6:組積造の住宅倒壊、Bhujにて

 

図1 Kachchh地方の死亡率(%)分布