2003926

琉球大学工学部  山川 哲雄

 

 

台風14号による宮古島の台風被害について

 

 

 

はじめに

2003910日夜から11日未明にかけて宮古島(那覇から南西に約300km)を襲った台風14号(最大瞬間風速74.1m)の被害調査を、大分大学の黒木正幸助手と琉球大学の山川の2人が宮古島で914日と15日の2日間にわたって行った。宮古島では主に、風車、電柱、建物、ブロック塀などに関する被害調査を行ってきた。以下の項目に関してはデータや資料を取り寄せて、後日詳細な検討が望まれる。

1)        実際の風荷重がどの程度であったか(風荷重に関する建築基準法の変遷と沖縄県の風荷重条例との関係を含めて)?

2)        上記の風荷重による応力は?

3)        作用応力に対する構造体の抵抗強度は?

4)        破壊形式は?

そのほか、将来的には沖縄に適切な設計用風荷重を再現期待値との関係も含めて検討する必要があろう。

 

1) 台風14号の概要(沖縄気象台発表)

台風14号は9月6日にマリアナ諸島付近で発生し、発達しながら時速10km以下のゆっくりとした速さで北西に進み,11日に宮古島の南東海上を通過した。その後、向きを北に変え、久米島の西海上を北上し、韓国南部にいったん上陸した後、日本海を北上し14日の未明に北海道・宗谷海峡を抜けて、同日の午前中にオホーツク海で温帯低気圧に変わった。

宮古島地方は10日17時頃から11日16時頃までの23時間この台風の暴風域に入り、同地方では11日の3時12分に最大瞬間風速74.1m/s、11日4時12分に最低気圧912.0hPaが観測された。

 

2)       宮古島被害の概要(沖縄県消防防災課発表(91218時現在))

(1)人的被害  死者1人 重傷1人 中傷7人 軽傷85名  合計94

(2)住民避難  16世帯 34

(3)住家被害  全6棟 全壊2棟 一部4棟(そのほか窓ガラス破損多数)

(4)非住家被害 16

(5)電話不通  740

(6)停電    19,400戸(91215時現在)

@電柱250本程度倒壊(その後の沖縄電力の集計では約850本)

A七又風力発電1号機倒壊

B狩俣風力発電35号機倒壊

(7)気象情報(沖縄気象台発表)

@最大風速   38.4m(北の風)(9110300分)

A最大瞬間風速 74.1m(北の風)(9110312分)

* 航空自衛隊宮古島分屯基地の風速計が最大瞬間風速86.6mを記録。ちなみに、国内最大瞬間風速は1966年の第2宮古島台風の85.3mである。また、沖縄電力宮古支店3階屋上の風速計が83mを記録した後で倒れている。風車倒壊現場では停電のため風速データは計測されていない(以上、沖縄タイムス新聞2003922日朝刊より)。

 

3) 風車(七又地区、写真−1参照)

風車は七又地区の1機(1号機500kW)が基礎アンカー部全体のコーン破壊(アンカー部全体が写真−1にあるようにすっぽ抜けた破壊)を起こしている。この原因には法令で規定された設計荷重以上の風荷重が作用した可能性も考えられる(2)(7)の気象情報欄参照)。アンカー部の長さは約1.2mあり、かつ密に(約150mm間隔)PC鋼棒(径36mmφ、ダブルで合計88本)が配置され、しかもリング状のアンカープレートでPC鋼棒が定着されていた。基礎上部には主筋D25 170本配筋され、その帯筋にはD13 が採用され、100mm間隔で配筋されている。想定以上の大きな風荷重が働いたためか、アンカー部のコンクリートの塊(タワー部よりやや大きい)が周辺の主筋と帯筋による囲みを押し広げて、一気に抜け出している感じである。したがって、設計に採用した風荷重、台風14号で実際に風車に作用した風荷重、そして風車アンカー部の引き抜け耐力などを比較すれば、この原因はある程度判明するものと思われる。

アンカー筋をもっと長くし、主筋と周帯筋のはらみだしを拘束する中子筋を配筋した上で、アンカープレートの厚さと定着広さの拡大などが必要であろう。そうすれば、想定以上の風荷重に対しても安全であろうが、問題はどの程度安全率を確保するのか、あるいは風荷重の再現期待値をどのように設定したらよいかなど検討すべき課題は多い。風車に関して、台風強襲地域の特別設計仕様を作成する必要があるのかなどは、今後の検討課題であろう。

七又地区の2号機(600kW)は風車の羽根が破損して運転不能の状態にあるが、タワー部および基礎部には損傷がまったく見られない。ただし、タワー

点検のためのアクセス用軽量鉄骨階段が地表面から浮き上がっている(写真−1参照)。この原因は周辺の地面上の砂が風で吹き飛ばされているのか、基礎のロッキング振動が起きたことに起因するのか、今のところ原因を究明するに至っていない。

 

4) 風車(狩俣地区、写真−2参照)

狩俣地区では345号機(各400kW)のうち2機が、タワー脚部から1m前後上部(点検孔付近)で曲げ圧縮力による局部座屈を起こし、タワー部の全体倒壊を起こしている。基礎上部にも振動もしくは倒壊時の衝撃力でひび割れが生じている(ひび割れ幅最大で2−3mm程度)が、これが倒壊の原因ではなく、あくまでも塔体の座屈である。塔体の座屈強度が点検孔の設置でやや低下していると思われるが、その座屈強度以上の風による圧力が作用したからではないかと考えられる。すなわち、法令で規定された設計用風荷重に対しては座屈強度を保有していたが、それ超える過大な風荷重に関しては十分な余裕がなかったのかもしれない。タワー部の座屈強度はどの程度の強度を保有しているのか、精度の高い解析が求められる。また、最大風速時に作用した外力と曲げモーメントはいくらかなど詳細に調査する必要がある。また、残りの一機も羽根が損傷し、運転不能な状態である。

 

5)       電柱(写真−3参照)

電柱が狩俣地区の一部、七又から上野村に行く途中、城辺町内でなぎ倒され

ている。その方向は、電線と直交方向である。電柱は電線で結合されているので、倒壊するときには強風下においてもじわりじわり、隣接の電柱を巻き込みながら連鎖反応的に倒壊していった可能性もある。すなわち、風車の倒壊のように、倒壊した瞬間の衝撃力は無いことになる。電柱が倒壊している場所は複数以上の電柱が押しなべて連鎖反応的に倒壊している。その倒壊のほとんどは地面から1m前後にかけて、中空のコンクリートが剥落し、主筋がむき出しになっている。曲げモーメントによる圧縮破壊と考えられるが、繰り返しせん断力も作用し、コンクリートが広い範囲にわたり剥落した要因になっている可能性もある。主筋は破断していない。主筋には9mm6mm筋の丸鋼(PC鋼棒?)が混在し、帯筋は4mm筋程度で、かつ約200mm間隔で配筋されている。電柱で上部や中間部が折損して折れ曲がっている電柱も折損電柱全体の5−6%程度あるようである(これらの正確な数字をつかむことは重要と思われる)。しかし、その大半は電柱下部で折損し、倒壊している。

電柱の応急復旧工事(倒壊した電柱をトランスや電線ごとそのまま引き起こし、早強コンクリートで補強)はコンクリートの剥落が地表面から広領域(約1m前後もしくはそれ以上)にわたっているので困難であると推定される。それより、今後大きな台風にも耐えられる沖縄仕様の電柱を研究開発することが重要であろう。今度の台風に対しては、電柱下部のコンクリートの断面積が不足しているように感じられる。電柱下部は中実断面、または中空断面の上にさらに増し打ちし、横補強してコンクリート断面を増大させることも考えられる。今後、研究の対象として電柱の仕様、設計を検討することは必要であり、また重要である。なぜなら、現在までにあまり研究の対象になっていないが、倒壊した電柱が公道をふさぎ、緊急車両の行き来を阻害する要因になっているからである。これも無視できない問題である。

一方、これらの被害を避けるために電線やケーブルを地下に埋設することも考えられる。そうすることも、このような被害を防ぐための有力な解決方法であろう。ただし、コストを必要とする。

なお、電柱の倒壊は沖縄電力の集計によると約850本程度であるが(2)(6)参照)、この割合は宮古島全体の電柱の4%に相当するそうである。したがって、残りの96%の電柱は強烈な台風のなかで損傷することなく、健全な状態を維持したことになる。ただし、停電戸数が19,400戸に及び(2(6)参照)、その戸数が宮古島全戸数の何%に相当するのかも、先の4%と共に合わせて検討する必要がある。また、電柱倒壊の原因にいろいろな飛散物(ビニールハウスのビニールやトタン屋根など)による風圧増大も考えられ、これに加えて設計用荷重以上の風が作用した影響も十分考えられる。

 

6) 道路標識板の支持ポール(写真−4参照)

 道路標識板の支持ポールは鋼管が使用されているが、それが写真のように脚部で水平方向に破断している。曲げ引っ張り破壊と推定されるが、脆性破壊に近いような印象を受けた。曲げモーメントやせん断力のほかに、ねじりモーメントもかなり働いたものと推定される。

 

7)       建物(写真−5、6参照)

著者らがみた建物被害では、主にクラブハウスと「学校の体育館」の2棟である。これらはいずれもガラス窓が破損し、そこから風が猛烈な勢いで進入して、屋根(鉄骨構造)部の仕上げ材を吹き飛ばしたことも考えられる。あるいは、屋根をおう仕上げ材のディテールが本土仕様?のため、強烈な台風に耐えられなかった恐れもある。主体構造である鉄骨部材には損傷も、座屈現象も観察されなかった。鉄骨構造としては問題なかったようである。仕上げ材のディテールに問題があり、またガラスの破損にも問題がある。ガラス材の小さな破損が仕上げ材の破損、損傷を加速したことは十分考えられる。

 

8) ブロック組積造(写真−7参照)

ブロック組積造では塀が一部損傷した被害例が見かけられたが、非常に少ない。また、RC造建物の張壁に利用されているブロック壁の被害を見出すことはできなかった。すなわち、これらの被害はないと考えられる。また、大半のブロック塀は健全であり、台風による被害はきわめて少ない。台風で破損や被害が生じているブロック塀では、鉄筋が配筋されていない場合や、配筋されてもコンクリートが充填されていないもの、あるいは枠組フレームが付随していないものに被害が見られた程度である。これらの被害状況から特に対策を講じることはなく、現行規定を忠実に守り、施工することで十分であろうと思われる。