コロンビア-アルメニア地震に関する情報(99/3/25暫定版)

建設省建築研究所 上之薗隆志

 

1.調査協力機関  コロンビア共和国 アルメニア市役所 計画局

2.調査期間 199939日〜323日(アルメニア滞在10日間)

 

3.地震諸元および被害概要

3.1地震諸元(INGEOMINAS, Red Sismologica Nacional de Colombia

発生日時 19991251319分(現地時間)

震源場所 コロンビア共和国キンディオ(Quindio)県コルドバ(Cordoba)町

     アルメニア市の南約16 km

     北緯4.42度、西経75.70度、ごく浅い位置が震源(10km程度)

地震規模 マグニチュード6.26(リヒタースケール)

   以上、(INGEOMINAS, Red Sismologica Nacional de Colombia)より

観測加速度 東西500gal程度、南北500gal程度、上下400gal程度(図から読み取った)。観測地点は、アルメニア市の北部にあるキンディオ大学構内にあり、傾斜地ではあるが地盤はいいという説明であった。応答加速度スペクトルは、耐震設計上想定していた以上のものが得られている。

余震の範囲 余震は、本震の震源からアルメニア市の直下までの付近を中心に発生している。

 

3.2被害概要

 被害は、キンディオ県の県庁所在地のアルメニア、アルメニアの近郊都市のカルラカ、アルメニアの南に位置する震源付近の町コルドバ、バルセロナ、ピハオ、アルメニアの北に位置するシルカシア、さらに、北のリサラルダ県の県庁所在地であるペレイラに及んでいる。死者は、コロンビア全体で1000名程度と言われているが、正確な数字は把握できなかった。市担当者からもらった資料では、アルメニアのあるキンディオ県で、行方不明者を含めて719名とある(月日は不明)。

 アルメニア市は、北が高く、南が低い傾斜地に、南北に広がっている。地盤としては、北部、中心地、南部と分けると、北部がよく、南部に行くほど悪くなる傾向にある。南部は、谷と稜線、さらに谷を埋めた部分が複雑に分布している。また中心部と南部の間に断層が確認されている。南部には低所得者層の低層住宅が多く、それらは古いものもあり新しいものもある。ほかに工場建築物、低所得者層向けの5階建て程度の集合住宅がある。中心部には3階以上の中高層の事務所建築物が多く、周辺部には低所得者層の古い低層住宅が分布している。北部には、高所得者層向けの低層住宅、中高層住宅、比較的新しい事務所建築物が分布している。建築物の被害はアルメニア市の中心部から南部が大きく、特に中心部の古い建築物、南部の低層住宅および古い中層住宅が大きな被害を受けた。今回の調査は地震発生後45日以上経過してから行ったため、倒壊した建築物や被害の大きかった建築物の多くは解体撤去されていたが、被害の大きさは、その時の写真や、被害建築物が解体撤去され更地になっていることにより推定できた。北部では、地盤の傾斜した土地に建てられた集合住宅の壁(レンガの非構造壁)が破損し、一部落下している。ただし柱や梁の構造体の被害は少ない。

 近郊都市のカルラカもアルメニア市と同様の被害を受けている。アルメニアの南に位置する震源付近の町コルドバ、バルセロナ、ピハオ、アルメニアの北に位置するシルカシアでは、枠組組積造をはじめ多くの低層建築物が被害を受けている。

 

3.3建築物の耐震設計

 コロンビアの建築物に関する耐震設計は、1984年にはじめて規定された。その後、1995年、1998年に改定され、さらに1999年1月(今回の地震直前)に小改定された。

 1984年より前の構造計算書見ると、建築物の固定荷重と積載荷重に対して設計されており、梁は鉄筋の計算をしているが、柱のついては鉛直荷重に対する断面積を計算しているに過ぎない。また柱筋や梁筋の継手は柱梁接合部で行っている。1984年以降も同様であるが、キャンティレバーの梁を出し、連続梁として設計したほうが鉛直荷重に対して有利なため、2階以上の床面積が大きくなるような建築物が多い特徴がある。この傾向は、2階建ての低層住宅でも同様である。

 1984年以降は地震による建築物の応答加速度スペクトルが与えられている。基本となるCoは、今回の地震の被害のあったキンディオ県は0.3であるが、建築物の変形性能に応じて低減できる(係数R,日本のDsの逆数)ようになっている。1995年以降は小改定(入力の強化等)がなされている。

 鉄筋コンクリート造建築物の耐震規定は基本的にアメリカ合衆国のACI318に準じている。新しい建築物はこの規定に従っているようである。

 2階建て以下の枠組組積造建築物に関しては、壁の材料、厚さ、壁量、柱の量、構造詳細、梁の構造詳細等が規定されている。しかしながら、低所得者層の2階建て以下の住宅は、持ち主自身が造ることが多く、規定は守られていないのが現状である。

 

3.4建築物の被害の特徴

3.4.1 1984年以前の鉄筋コンクリート造建築物

 中心部の一般建築物および南部の集合住宅が大きな被害を受けた建築物が多い。原因として、以下のような項目が考えられる。

1)耐震設計がなされておらず、柱の曲げやせん断応力に対する断面、主筋、せん断補強筋が不足していた。

2)せん断補強筋は90度フックが一般的であった。

3)柱主筋を柱梁接合部で継ぐことが一般的であった。

4)柱梁接合部のせん断補強筋、柱梁接合部への主筋の定着などの配筋詳細が耐震的に不十分であった。

5)非構造壁としての組積造壁が早期にせん断破壊し、さらに耐震設計されていない柱や梁、あるいは柱梁接合部がせん断破壊した。

6)ジャンカがあるとともに、コンクリートの打ち継面の施工品質がよくなかった。

 

3.4.2 1984年以降の鉄筋コンクリート造建築物

 多くの建築物は、フレーム構造として構造設計されており、それらの構造的被害は1984年以前の建築物の被害に比較して少なかった。しかしながら、非構造壁の組積造壁を無視して設計しているため、以下のような被害が目立った。

1)非構造壁である組積造壁が、鉄筋コンクリート造フレーム構造の変形に追従できず、破壊し、落下している。この被害はフレーム内の壁でも見受けられたが、特にキャンティレバー梁上の非構造壁は柱で囲まれておらず、簡単に落下したと推定される

2)5階建て程度の集合住宅においては、1階の非構造壁が早期に破壊したため、建築物全体がピロティ建築物のように挙動し、一階柱の柱頭が曲げ圧縮破壊を示している例があった。

 

3.4.3 鉄筋コンクリート造建築物の非構造壁について

 被害の原因として、構造設計上における非構造壁の取り扱いが、大きな原因のひとつと考えられる。非構造壁が早期に破壊することにより、非構造壁自体の落下による被害や、柱・梁への悪影響によるフレーム構造体の破壊が生じたことである。また一方、直下型地震の特徴のひとつである最初のほうの大きな地震動のエネルギーを、まず非構造壁が破壊することにより吸収できたとも考えられる。非構造壁の悪影響や効果を、建築物の耐震設計へ適切に考慮・評価することが重要と考えられる。

 

3.4.4 低所得者層の低層住宅

 低所得者層の住宅としては、枠組組積造、竹造モルタル仕上げ、竹造があり、枠組組積造は古いものから新しいものまである。竹造モルタル仕上げは古い建築物が多い。竹造は特に低所得者層の住宅としてあるが数は少ない。枠組組積造と竹造モルタル仕上げの住宅は外観上、見分けがつかないので、枠組組積造として被害の概要を述べる。被害は、以下のようにまとめられる。

1)枠組組積造および竹造モルタル仕上げの住宅の被害は地域のよって大きく変化する。谷、稜線、谷の埋立地が混在する南部の被害多く、特に古い住宅の多い中心部周辺、南部でも中心部に近い範囲の住宅の被害が多い。竹造モルタル仕上げの住宅は、この古い住宅のある範囲に多い。低所得者層の住宅は、持主自身が造るため、耐震規定が十分に適用されていないのが主な原因と考えられる。同じ枠組組積造でも新しく分譲された住宅は、耐震規定が適用され、また施工もほどほど満足できるものであったため、小さな被害で収まったものと考えられる。

2)竹造住宅は、軽量でもあり大きな被害はなかった。ただし、特に低所得者層の住宅のため谷への傾斜地に建てられており、地すべりによる被害もあった。

 

4.地震後の建築物被害の判定について

 地震直後早々に建築物の被害程度を判定し、その建築物が危険か、または使用可能かを判定することは、余震による被害低減と地震直後の人心安定を図る上で重要なことである。今回のアルメニア市では、この作業が以下のようにして行われた。判定の手法としては、米国のATC14とATC40(Applied Technology Council)が基本となっている。

1)第1段階として、建築家、構造技術者、建設学科最終学年の学生たちが1チーム2名で、建築物の構造、地盤および設備に関する被害を判定する。結果として、建築物の被害に応じて、危険(赤)、注意(黄)、使用可(緑)の張り紙を行う。

   判定を行った技術者等は全国からボランティアで集まり、50〜60チームが動いた。判定は、アルメニア市を10地域に分け、さらにそれぞれの地域を20部所に分けて行われ、3月15日の段階で、約8200棟(対象建築物の約90%)が終了していた。

2)第1段階の判定で危険(赤)と判定された建築物については第2段階として、構造技術者により再度調査され、構造的被害のレベル(小、中、大)が判定される。

3)第2段階の結果を受け、少なくとも3人以上の構造技術者による委員会において、建築物を、詳細調査、または応急補強、または解体の対象として分類する。解体と判定されたものはアルメニア市が解体していた。

 

5.まとめ

1)鉄筋コンクリート造フレーム構造内に組み込まれる組積造の非構造壁を、耐震設計上明確にする必要がある。

   ・大地震動時に非構造壁が破壊すると想定するのであれば、非構造壁の落下防止を図る必要がある。さらに、大地震動時に非構造壁が破壊する時のエネルギー吸収能力を耐震設計上評価するか、またできるかどうか検討する必要がある。

   ・組積造壁を構造体として評価するのであれば、ある程度のせん断補強が必要である。

2)大地震動時に建築物が、特に非構造部材がどのような状態になると設計上想定しているかを、施主や使用者と合意する必要がある。

3)設計と同様に、設計の性能を確保するための施工品質管理・監理も重要である。

4)低層住宅は持主自身が建設することが多いので、耐震規定の考えが広くひろまるような手引書が必要である。ただし、基礎、柱、梁および柱梁接合部の配筋、コンクリートの施工方法を簡単にそして正確に示した手引書を、市および技術者協会で作成し、配布する必要がある。