トリアージQ&A 本文をプリントアウトする場合は、40文字/行  に設定して下さい。 (社)静岡市医師会では、ホームページにおける『防災対策』の中で、トリアージの説明や「トリアージについて良くある質問と回答」を掲載しています。 又、トリアージに対する疑問や質問をメールでいただき、メールでお答えするコーナーも設けています。(2003年4月より) URLは下記の通りです。 http://www.shizuoka.shizuoka.med.or.jp トリアージの日本語訳は、何というのですか? トリアージの語源は、コーヒー豆の選別をする際に使われたフランス語に由来します。 しかし、対応する日本語訳は特になく、そのまま「トリアージ」で通ります。 トリアージは、何故、必要なのですか? 地震などの大規模災害時には、通常の何十倍にも達する数の負傷者が、ほぼ同時に発生して、被災地での救急医療体制の対応能力をはるかに超えてしまいます。 このような状況下では、医師・看護師・治療薬剤や機材などには限りがありますので、これらは、出来る限り多くの負傷者を救命するために活かさなくてはならなくなります。 しかし、それには、負傷者を重症度や緊急度に応じて振り分け、治療に優先順位を付ける必要があり、トリアージは、このために行われます。 トリアージの判定は、誰が行うのですか? 医師が行うことになっていますが、状況によっては、救急救命士や看護師など救急医療に関する知識を持った者が行う場合もあります。又、トリアージを行う者は、応急処置を含めて、一切の治療行為を行いません。トリアージだけに専念します。 なお、欧米には、一般市民の方にトリアージの方法を教えている所もあります。 トリアージは、いつ・どこで行われるのですか? トリアージは、負傷者が病院や医療救護所に入る前に、その入り口で行います。 そして、トリアージ判定の結果が黄タッグか赤タッグの方だけを病院(医療救護所)の中に搬入して治療(処置)を行います。ただし、この場合も、内部に多数の負傷者がいるため、家族や付き添いの方は中に入れません。 トリアージの判定基準は、どのようなものなのですか? トリアージでは、意識状態や血圧・脈拍数・呼吸数などといったバイタルサイン、そして、傷の場合は出血の程度、火傷なら合計面積、骨折なら何ヶ所あるのか・骨が外に出ているか否か、などを目安にして、重症度や緊急度を判断し、タッグの色を判定します。 黒タッグと判定するのは、意識がない・瞳孔散大・血圧0(脈拍触れず)・呼吸停止などの明らかに死亡と判断できる徴候が揃っている場合、頭部や胸腹部の高度な損傷など一目で救命は到底不可能と判断できるような外傷の場合などがあります。 赤タッグと判定するのは、直ちに治療が必要と判断される場合です。体表面積の30%以上の火傷、傷口から多量の出血が認められる外傷、四肢に2ヶ所以上の骨折がある場合、頭の中の損傷や出血・腹部内臓の損傷が疑われる場合などがあります。 黄タッグは、2〜3時間は治療を待てると判断できる場合です。骨が外に飛び出すような骨折でも災害時は黄タッグとなります。 緑タッグも、平常時の軽症とは大きく異なるものです。すなわち、応急処置程度は必要でも、当面は治療を行わなくても問題がないと判断できれば、緑タッグとなります。 例えば、縫う必要があるような切り傷も、火傷でも面積が狭ければ、脱臼や骨折でも骨が外に出ていなければ、全て緑タッグです。 災害時、心電図も取らずに、どうして死亡と判断できるのですか? トリアージに限りませんが、死亡診断は、実際のところ、意識状態や対光反射の有無(瞳孔散大)、血圧・脈拍数・呼吸数などといったバイタルサインにより確実に行うことができます。むしろ、普段は、これらによる死亡診断だけでなく、心電図を示すことにより、家族などの方に客観的に死亡を理解していただいている、とお考え下さい。 普段なら、蘇生の見込みが殆どなくても、心マッサージや人工呼吸を施した上で死亡と告げられるものなのに、何の処置も行われずに死亡宣告されるのは、納得できないのですが? 心肺蘇生を行う場合には、多くの機材や薬剤に加えて医師や看護師といった何人もの医療スタッフが必要です。災害時は、機材や薬剤・医療スタッフの数には限りがあるため、より救命の可能性の高い方に、これらを振り向ざるを得ません。さもないと、結果的に誰も救えなくなってしまいます。 なお、現場で、付き添いの方に人工呼吸や心マッサージを教えて、実施してもらうこともあり得ます。実際、その場に医療スタッフが十分いても、機材や薬剤が限られるため、その程度の対応しかできないものと思われます。 トリアージの判定結果(タッグの色)による対応の違いを教えて下さい。 黒タッグの方は、救命の見込みは殆どないということで、敢えて蘇生は断念します。これも、緊急度が高く、そして、救命の可能性のある方に対して、限られた貴重な人的・物的医療資源を優先して振り向けるための苦しい選択なのです。 黄タッグか赤タッグの方は、いずれも、病院(医療救護所)の中に搬入して治療(処置)を行いますが、赤タッグの方が優先されます。ただし、黄タッグの方も、2〜3時間待機可能ということで放っておかれる訳ではなく、常に医療関係者が付いて様子を見守ります。 緑タッグの方は、病院や医療救護所に入ることはできません。病院や医療救護所の外で、別のスタッフや自主防災組織の方などによる応急処置を受けて下さい。 緑タッグの場合は、何も治療をしてもらえないのですか? 緑タッグと判定された方は、病院や医療救護所に入ることはできませんので、医師による治療は受けられませんが、病院や医療救護所の外で、別のスタッフや自主防災組織の方などが、傷の洗浄や消毒、止血、副木固定やシップといった応急処置を行い、後で治療を受けるまでに状態が悪化しないように、あるいは、ケガの痛みなどが楽になるようにします。 むしろ、緑タッグと判定された方は、自分のケガが軽かったということで安心し、又、付き添ってきた方も、そのように考えて負傷者を励ますようにして下さい。 災害時には、自分が一寸我慢することで、助けることができる多くの命があることをご理解願います。 トリアージの判定を間違える可能性は、ないのでしょうか? 黒タッグの判定は、意識状態・血圧・脈拍数・呼吸数といったバイタルサインにより、呼びかけに全く応じないことや生命徴候のないことを確認して行います。従って、赤タッグや黄タッグの方が間違えて黒タッグと判定されてしまうことは殆どないと思われます。 一方、緑タッグも、傷の状態(出血量の多い少ない)や骨が出ているか否かなどから判断しますので、同様に、赤タッグや黄タッグの方が間違えて緑タッグと判定されてしまうことはないと思われます。 問題は、本来なら赤タッグと判定されるべきケースを黄タッグと判定してしまうことですが、これについては、その可能性が全くない、とは言い切れません。 しかし、搬入された病院や医療救護所内では、治療や処置のために、別の医師が診察します。容態が黄タッグの割には悪いと思われたら、直ちに判定を見直して赤タッグとして対応します。更に、搬送先の病院でも再度トリアージを実施します。これを二次トリアージといいますが、このように、常に容態を観察して、必要があれば判定の見直しを行い、判定の誤りを最小限に食い止めるようなシステムになっていますので、ご安心願います。 黄タッグと判定されても、途中で容態が悪化することがあると思うのですが? 黄タッグは、治療開始を2〜3時間待つ余裕がある、という判定ですが、黄タッグと判定されたら病院や医療救護所に搬入されても2〜3時間放っておかれる、という訳ではなく、そこでは常に医療関係者が付いて様子を見守ります。従って、容態が悪化したら、直ちに、判定を見直して赤タッグとして対応しますので、心配ありません。 災害時には、トリアージにより、死亡でなくても、重症なケガは助かる見込みがないということで見捨てられてしまうのですか? トリアージは、決して、生存していて救命の可能性がある方を単に重症という理由で見捨ててしまうためのものではありません。むしろ、限られた条件の中で、少しでも多くの方を助けるためには、どの方を優先して治療するのが最良の策かを判断するためのものです。 すなわち、トリアージで黒タッグと判定するのは、意識状態・血圧・脈拍数・呼吸数といったバイタルサインにより、呼びかけに全く応じないことや生命徴候のないことが確認された場合や頭部や胸腹部の高度な損傷など確実に死亡状態と判断できる場合だけであり、平常時でも救命することは、ほぼ不可能な方に限られます。 もし、わずかでも意識や生命徴候があり、救命の可能性が残されていれば、その場合は赤タッグと判定して直ちに治療を要する方として対応します。 このような方を救命するために、緑タッグの方、そして、黒タッグと判定された家族の方は、その心中は察して余りありますが、どうか「治療の順番」を譲ってあげて下さい。