「災害時の医療」とトリアージ  本文をプリントアウトする場合は、40文字/行  に設定して下さい。 …………………………………………………………………………………………………………          ビデオ『「災害時の医療」とトリアージ』の要旨 1 災害時には、治療の順番は、どうなるのか? 2 一番先に治療するのは? 3 緑タッグでも、普段の軽症とは異なります。 4 災害時に、なぜ、病院は手当を尽くさないのか? 5 東海地震での被害想定は? 県立総合病院には負傷者は何人くらい来るのか? 6 会場に来ている人たちを負傷者に見立てて考えると? 7 順番に治療をしていたら? 8 治療をしても助けられないと判断された患者さんを治療したら? 9 大地震の時の病院の使命とは? 10 阪神・淡路大震災の教訓とは? 11 災害時の医療とは?(トリアージについてのまとめ) 12 震災時、負傷者の救出や搬送は誰が行うのか? 13 地震などの際に、できるだけ多くの方を助けるためには、何が必要なのか? 14 トリアージ訓練の実写シーン 15 災害時に予想される病院の状況や対応などについての説明 16 各模擬患者の病状やトリアージ判定・処置などの説明      @急性硬膜外血腫‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥赤タッグ      A前胸部、両上肢熱傷‥‥‥‥‥‥‥‥赤タッグ      B右下肢挫滅症候群、右前腕骨骨折‥‥赤タッグ      C右下腿開放骨折‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥黄タッグ      D眼球脱出‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥黄タッグ      E左前腕骨骨折‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥緑タッグ      F右肩関節脱臼‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥緑タッグ      G顔面打撲、鼻出血‥‥‥‥‥‥‥‥‥緑タッグ      H35週妊婦 破水、出血なし‥‥‥‥黄タッグ      I急性硬膜下血腫‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥黒タッグ      J多発外傷‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥黒タッグ …………………………………………………………………………………………………………                 トリアージとは? 災害時には、同時に多数の負傷者が発生しますが、その一方で、医師や看護師・治療資機材や薬剤といった人的・物的医療資源の数量は平常時と変わりがありません。 又、特に震災の場合には、地域の医療機関も被災しますので、むしろ医療資源は平常時よりも減少する上、道路の崩壊などにより、当面の補給手段も断たれるものと予想されます。 このように、負傷者の治療に必要な医療資源が圧倒的に不足する状況下では、限られた貴重な医療資源は、出来る限り多くの負傷者を救命するために活かさなくてはなりません。 この目的のために実施されるのが、トリアージで、その語源はコーヒー豆の選別をする際に使われたフランス語(trier)に由来しますが、負傷者を重症度や緊急度に応じて振り分け、治療に優先順位を付けることをいいます。 トリアージの判定は、負傷者における治療の必要度・緊急度により、次のように、黒タッグ〜緑タッグまでの4段階に分かれています。 ┌──────────────────────────────────────┐ │ 黒タッグ:意識や呼吸・心拍などにより、生命徴候がないと判断されるもの │ │ │ │ 赤タッグ:生命・四肢の危機的な状態が存在し、直ちに処置が必要なもの │ │ │ │ 黄タッグ:2・3時間処置を遅らせても悪化しないが、専門医の診療が必要なもの │ │ │ │ 緑タッグ:通院できる外傷で、必ずしも専門医の診療を必要としないもの │ └──────────────────────────────────────┘ 実際の災害時には、負傷者の治療を行う前に、トリアージ担当者が医療救護所や病院の入り口で負傷者を診察して、負傷者における治療の必要度・緊急度を判定し、その結果をトリアージ・タッグに記入して負傷者の右手首(原則)に付けていきます。           トリアージ判定と対応(緑タッグと黒タッグ) 災害時には、平常時なら医師が直ちに治療するような外傷でも、生命に関わらなければ、軽症です。この場合は、緑タッグと判定され、医師の治療を受けずに、応急処置のみで帰宅していただき、後日、災害救護が落ち着いてから治療します。 例えば、縫合が必要な切り傷でも、出血が大量でなく、生命に関わらないと判断できれば、緑タッグとなり、消毒などの応急処置を医療救護所や病院の外で受けるだけとなります。 骨折の場合も、1ヶ所だけの骨折で、折れた骨が外に飛び出していなければ、緑タッグであり、医師の治療を受けずに、副木固定や湿布のみで帰宅していただくことになります。 実際、阪神・淡路大震災では、上腕骨骨折の方が、三角巾で腕を吊るすだけの処置でいたということがあったそうです。 一方、呼吸や心拍が殆ど停止しており、救命の可能性が極めて少ない負傷者の場合、平常時なら医療スタッフや機材・薬剤を総動員して心肺蘇生を試みますが、災害時には、黒タッグと判定し、敢えて心肺蘇生などの救命措置は断念します。 何故なら、心肺蘇生などの救命措置を行うと、その負傷者に何人もの医師や看護師が付きっ切りになるため、他の負傷者の治療はできなくなります。しかし、災害時には、直ちに治療を開始しないと死亡してしまうような「赤タッグ」の負傷者が多数発生しています。 救命の可能性が極めて少ない負傷者に救命措置を実施しても、結局、そのような負傷者は殆ど全てが死亡してしまうだけでなく、その結果、「普段なら助けられるはずの負傷者」までもが何人も命を落としてしまうことになるからです。 なお、黒タッグと判定された場合、付き添ってきた家族の方に人工呼吸と心マッサージを教えて、実施していただくことになると思われますが、実際、現場には人工呼吸器などの機材はなく、医師などの医療従事者でも、このような対処しかできないものと思われます。             黄タッグや赤タッグの負傷者の治療 黄タッグや赤タッグの負傷者だけが医師の治療を受けることになりますが、医療救護所の場合は、点滴などの応急処置を行いつつ、病院への搬送を手配します。 しかし、病院でも、赤タッグの負傷者が搬入されたら、即座に治療が開始できるわけではありません。あちらからも、こちらからも、多数の重症者が運ばれて来ているからです。 このため、病院内でも、もう一度、トリアージを行い、より緊急性と救命の見込みのある方から治療を開始します。このような事情ですから、混乱が起きないようにするため、家族など付き添いの方は、一切、病院内には入れません。 『病院内に入ることができるのは負傷者だけである』ということをご承知おき願います。 一方、黄タッグは、治療開始を2〜3時間待つ余裕がある、という判定ですが、病院などに搬入されても2〜3時間放っておかれる、ということではありません。 治療の順番を待つ間も、医師・看護師などの医療関係者が常に様子を観察し、容態が急に悪化した場合には、トリアージ判定を見直して対応します。 すなわち、現場でのトリアージ判定が絶対ではなく、搬送先でもトリアージを実施(二次トリアージ)したり、治療を待つ間も様子を観察するなどして、仮に、トリアージ判定に誤りがあっても、急に容態が悪化しても、発見され、見直されるようなシステムになっていますので、ご安心願います。            災害に備えて その1(ケガに備えよう) 災害時には、切り傷や打撲・捻挫といった外傷は、緑タッグと判定して、消毒や湿布などにより、各自で対応してもらうことになります。 打撲の部位(頭部・腹部など)によっては、様子を観察するなど慎重に対応する必要がありますが、緑タッグと判定されるような外傷は、先ず、各自が応急処置を行うようにしていただけると、災害時初期の医療救護所や病院の混雑を減らすことができます。 このように、応急救護の知識は、日頃のケガに対する対応だけでなく、災害時に最も真価を発揮しますので、機会があれば、応急救護や心肺蘇生の講習を受けておいて下さい。 なお、災害に備えて、「常備薬」として、鎮痛剤や風邪薬・胃腸薬だけでなく、湿布・消毒薬も非常持ち出し袋に入れておくことをお勧めします。            災害に備えて その2(病気にも備えよう) 災害時には、軽症外傷者だけでなく、慢性疾患などで通院している方が、かかりつけの総合病院を受診した場合も、診察に応じてもらえない可能性があります。 一方、地域の診療所も被災により診療不能となる可能性があり、これらの医療機関の診療態勢が復旧するまでには、発災後7〜10日程度は必要と思われますので、この間に内服薬などが切れると、服薬治療が継続できなくなります。 持病があって内服治療を受けている方は、被災後に処方を受けられなくても、服薬を続けられるように「薬のストック」を作って備えておいたり、救護所や避難所などで「主治医ではない別の医師」が診察しても様子が判るようにしておいて下さい。 なお、「常備薬」として、鎮痛剤や風邪薬・胃腸薬を、湿布・消毒薬などと共に非常持ち出し袋に入れておくことをお勧めします。           「災害時の医療」の特殊性にご理解を!! 「災害時の医療」は、負傷者に対して医療資源が人的にも物的にも圧倒的に不足している状況で行われるため、限られた医療資源を最大限に活かして、救命可能な負傷者を優先して治療するという、平常時とは全く異なった視点で行わざるを得なくなります。 このため、医療救護所や病院に運ばれた時点で呼吸も心拍も殆ど停止しているような場合は、平常時ならば何人もの医療スタッフが付ききりとなって機材や薬剤そして時間を惜しむことなく心肺蘇生を試みますが、災害時には、もはや救命の見込みは極めて少ないため、心肺蘇生は断念して黒タッグが付けられます。 一方、切り傷や火傷などを負った方が自力で医療救護所や病院を受診した場合も、緊急性のない状態であり治療を待てる外傷と判断できれば、平常時とは異なり、消毒後にガーゼで被う応急処置のみで済ませることもあります。(緑タッグ) これらは、いずれも、より緊急度が高く、そして、より救命の可能性のある方に対して、限られた貴重な人的・物的医療資源を優先して振り向けるための「苦しい選択」なのです。 災害救護に関わる人達は、もちろんですが、一般の方々も、このことを十分に理解しておかないと、いざ災害という時に、不幸にして死亡された方に対して平常時同様に最善の治療を求める家族の方や我先にと治療を求めて殺到する軽症外傷者などにより、医療救護所や病院は大混乱となるだけでなく、結局、本来ならば助かるはずの人達までもが命を落としてしまう、という最悪の事態を招きかねません。