第23回地盤震動シンポジウム、日本建築学会、1995.10.13

ノースリッジ地震の地震動 − 類似点と相違点
Strong Ground Motion during the 1994 Northridge Earthquake
(Comparison with Strong Motion during the 1995 Hyogo-ken Nanbu Earthquake)
久田嘉章 1)   山本俊六 2)
Yoshiaki Hisada and Shunroku Yamamoto

1) 東京都新宿区西新宿 1 - 24 - 2、工学院大学 建築学科 講師、工学博士
2) 東京都新宿区大久保 3 - 4 - 1、早稲田大学 建築学科 特別研究員、工学博士


1.はじめに
 1994年ノースリッジ地震と1995年兵庫県南部地震の地震動は、都市直下で起きた地震として多くの類似点がある。特に、震源域近くで観測されたやや長周期成分に富む、大振幅のパルス状の変位、速度波形が際立った特徴である。但し、震源メカニズムの違いによって、振幅の卓越する方向性や空間的な分布に相違点が見られる。ここでは、はじめに両地震での地震動の特徴をまとめ、次に、その大振幅パルス波の成因が理論地震動による解析からどのように説明されるのかを調べ、最後に構造物への影響を考察する。

2.地震動の特徴
(1)1994年ノースリッジ地震とその地震動の特徴
 この地震は、図1に示すようにロサンゼルスの北に位置するサンフェルナンドバレーの直下で生じた。ローカルマグニチュードが6.4、モーメントニグネチュードは6.7である。断層面の大きさは約20km四方で、北東に向かって約40度の角度で上向きに傾斜している。破壊は南東の端付近で生じ、北に向かって伝播した。断層面の食い違いは、上盤が下盤に対して北に動く、逆断層タイプである[1]。この地震に関する概説は、文献[2],[3],[4],[5]なども参照されたい。
 200点以上の自由表面の観測点で、強震観測記録が得られている[2]。図1には最大加速度のコンターが示されている。これまで得られている経験式などと比べ、最大加速度で見た場合、その距離減衰は図2に示されるように既往の式に比べて震源域近くで上回るとされている[5],[6]。特に図1に示されるように震源域とその北側で大きな値となっている。しかし、カルフォルニアでの地震は横ずれ断層が主であり、逆断層による強震記録は少ない。そこで文献[6]では、理論地震動を用いて逆断層による強震動として解析しており、その結果、観測された加速度記録は決して異常に大きな値ではない、と報告している。
 一方、この地震動を変位、速度波形で見た場合、そのより際立った特徴が見られる。図3に速度記録の分布を示す。震源の南側に比べ、震源域及びその北側での振幅が大きく、パルス状の波形が見られる。大きなパルス波は、震源域上とそのすぐ北側で際だっており、Sylmarで最大130cm/s(図中のSYL)、Los Angeles Department of Water and Power Renaldi Station (同、RRS)では約170 cm/sの最大速度が観測されている。その方位は、断層のUp - Dip方向、即ち、北東方向で卓越する[7]。
 この他、上記の一般的な傾向とは別に、ローカルなサイト特性が顕著に現れている観測記録としてTarzana、Santa Monicaでの大きな加速度[8],[9]、ロサンゼルス盆地内での堆積層表面波の発達などが挙げられる[10],[11]。各観測記録に関し理論的検討がされており、個々の文献に参照されたい。
(2)1995年兵庫県南部地震とその地震動の特徴
 観測された地震動はノースリッジ地震と多くの類似点を持つ。まず、最大加速度でみた場合、既往の経験式でほぼ説明可能であり、特に異常は見られない[12]。しかし、既往の強震記録に比べ、図4に示されるようにやや長周期成分を多く含み、一方、図5にみられるように速度波形、変位波形で見た場合、大振幅のパルス波が震源域で現れている[13]。速度波形の大振幅の方位は、断層面に直交する方向、すなわち南東−北西方向に現われている[13],[14]。

3.断層震源モデルによる理論地震動波形
 ノースリッジ地震と兵庫県南部地震の地震動の特徴、すなわち、大きな振幅を持つパルス状の変位、速度波形の成因を探るため、簡単な震源モデルを用いて理論地震動を計算する。一般に変位、速度波形の卓越周期は一秒以上であり、決定論的な計算が可能である。計算に用いるグリーン関数コードはHisada (1995)であり、Internetを通して一般に公開されている[15]。
表1:右横ずれ移動震源(兵庫県南部地震)を想定した解析モデルの断層パラメータ
Length (m) 6000
Width (m) 2000
Displacement (m) 2
Strike angle (degree) 90
Dip angle (degree) 90
Rake angle (degree) 180
Rise time (sec) 1.5
Rupture velocity (m/sec) 2500
(1)右横ずれ断層からの理論地震動
 兵庫県南部地震の際の神戸市での地震動を念頭に置き、表1のパラメータを持つ震源モデルを用いて右横ずれ断層からの近地での理論地震動を計算する。ここでは震源特性が地震動に与える影響が主目的であるため、一様な半無限地盤を仮定し、堆積層の影響は無視する。P波速度が6 km/s、S波速度が3.5 km/sを仮定している。
 図6に示すように長さ4kmの断層面を東から西に破壊伝播速度 2.5 km/sで連続して破壊させる。断層上で東西40kmの長さに位置する9個の観測点での速度波形を図7に示す。図中の各成分波のうち、下部の波形が西側の観測点、すなわち断層の破壊方向から遠ざかる点で、上部の波形は東側の観測点、すなわち破壊が近づいてくる点である。図より断層面に直交するNS成分が、EW成分よりかなり大きな振幅となり、パルス波を示すのが分かる。これは右横ずれ断層のRadiation Patternにより、破壊が観測点の西側にある場合、観測点では北向きの振幅が卓越し、破壊が観測点を通過して西側にある場合、位相が逆転し南向きの振幅が卓越するためである。しかもDirectivity効果(移動震源による方向性:ドップラー効果的な現象)により、東側の観測点では、継続時間が短くなり振幅が著しく増大している(Forward Directivity Effect)。同じ理由から上下動成分も場所により、EW成分を上回っている。
 横ずれ断層の際、断層近くで観測される変位や速度波形において、断層面の直交成分が平行成分よりも大きくなり、パルス波となることは地震学では古くから知られている[16]。最近、文献[17]ではカルフォルニアでの横ずれ断層からの観測波を調べ、上記のRadiation PatternとDirectivity効果によって断層面の直交成分波が、平行成分波より大きくなり、特に周期約1秒以上のやや長周期成分で顕著に現われることを報告している。一方、短周期成分(すなわち加速度波形)では明瞭なRadiation PatternやDirectivity効果は一般に弱くなる。これは断層破壊過程での微細なメカニズムの影響や伝播過程での散乱などによってランダム性が増すためと考えられている(例えば[18])。
 上記の特徴を示す典型的例として、図8に1979年Imperial Valley地震での速度波形を示す[19]。この地震では破壊は断層面の南端で生じ、北に破壊伝播してきた。上記のForward Directivity Effectによって、北側の観測点で、断層直交成分で大振幅のパルス波を生じているのが分かる。図9は変位の応答スペクトルを平均化したものである[17]。やはり周期約1秒以上で、破壊の進行方向の観測点で直交成分が、平行成分よりも数倍大きな振幅となっている。
 ちなみに設計用標準地震動として用いられるエルセントロ波は、1940年のImperial Valley地震の際、図8に記されたエルセントロで観測された波形である。1940年の地震の場合、破壊は断層面の北側で生じ、南側に伝播していった。従ってエルセントロ波にはBackward Directivity の影響で、1979年の観測波に比べ継続時間は長いものの、大振幅のパルス波は現れていない[20]。従って、図4の応答スペクトルに見られるようにやや長周期成分もあまり励起されていない。
 1995年兵庫県南部地震の地震動は、上記の現象を確認したことになる。ちなみに、サハリン北部で起きた1995年ネフチェゴルスク地震も右横ずれ断層であり、破壊伝播方向(北側)で樹木が断層面に直交して系統的に倒れているのが確認されている[21]。
(2)逆断層からの理論地震動
 同様に、ノースリッジ地震を想定し、表2に示す震源パラメータを用い、図10に示すような逆断層から理論地震動を計算する。破壊は南端で生じ、Up - Dip方向(北側)に伝播するとする。図11に各観測点での速度波形を示す。震源モデルの東西対称性からEW成分はゼロである。南側の観測点(図中の各成分波のうち、下部の波形)では継続時間が長く振幅は小さい波形となるが、断層面上から北側の観測点(同、中部から上部の波形)ではForward Directivity Effectによって、継続時間の短いUp - Dip方向に卓越する大振幅のパルス波となる。この傾向は、図3に示されるようにノースリッジ地震での観測波でも明瞭に認められる。
 文献[7]は観測記録を用いてノースリッジ地震の震源インバージョンを行っている。その結果、断層面上で主に二つのアスペリティー(破壊が大きく、大振幅の波を発生させるところ)を同定し、震源の南や東西の観測波形にはそこからのパルス波が分離しているが、断層面上からその北側ではパルス波が重なって、その結果、非常に大きな振幅となることを明らかにしている。
表2:逆断層(ノースリッジ地震)を想定した解析モデルの断層パラメータ
Length (m) 2000
Width (m) 20000
Displacement (m) 1.5
Strike angle (degree) 90
Dip angle (degree) 40
Rake angle (degree) 90
Rise time (sec) 1.5
Rupture velocity (m/sec) 2500

4.おわりに
 近地地震の強震観測記録が少なかったこともあり、上記のような震源域近傍での、速度、変位波形の大振幅パルス波は、これまであまり工学では注目されてはいなかった。このような波形が構造物にどのような影響を与え、また実際に兵庫県南部地震などでの被害にどのように影響したのかが注目される。これに関連する研究として文献[22]が挙げられる。[22]では、ロサンゼルス直下に逆断層型に仮想震源を想定し、仮想20階建て鉄骨構造物の非線形応答解析を行なっている。その結果、パルス波の押し引きによって仮想ビルに大きな転倒モーメントが生じ、最悪のケースでは崩壊するとしている。また同時に、地上3階建ての免振ビルの解析も行っており、50−60cmのクリアランスでは、壁に衝突する場合もあるとしている。今後は様々な地域で、直下型地震を想定したこの種の検討を進める必要があると考えられる。

謝辞
 本論文を書くに当たり、金森博雄、Dave Wald、Rob Graves、翠川三郎、各氏らから貴重なご意見をいただきました。記して感謝いたします。

参考文献
  1. D.J.Wald、A Dislocation Model of the 1994 Northridge,California,Earthquake Determined from Strong Ground Motions、U.S.Geological Survey Open−File Report 94−278、1994
  2. Scientists of the U.S. Geological Survey and the Southern California Earthquake Center、 The Magnitude 6.7 Northridge, California,Earthquake of 17 January 1994、Science、Vol.266、pp.389−397、1994
  3. EERI、Northridge Earthquake January 17,1994、Preliminary Reconnaissance Report、1994
  4. 日本建築学会、1994年ノースリッジ地震災害調査報告書、1996(予定)
  5. J.P.Stewart、S.W.Chang、J.D.Bray、R.B.Seed、N.Sitar、and M.F.Riemer、A Report on Geotechnical Aspects of the January 17,1994 Northridge Earthquake、Seismo.Res.Letters、Vol.66、PP.7−19、1995
  6. P.G.Somerville、C.Saikia、D.Wald、and R.W.Graves、Implications of the Northridge Earthquake for Strong Ground Motions from Thrust Faults、submitted to Bull.Seism.Soc.Am.、1995
  7. D.J.Wald、T.H.Heaton、and K.W.Hudnut、The Slip History of the 1994 Northridge,California,Earthquake Determined From Strong−Motion,Teleseismic,GPS,and Leveling Data、submitted to Bull.Seism.Soc.Am.、1995
  8. P.Spudich、M.Hellweg、and W.H.K.Lee、Directional Topographic Site Response at Tarzana Observed in Aftershocks of the 1994 Northridge,California,Earthquake: Implications for Main Scock Motions、submitted to Bull.Seism.Soc.Am.、1995
  9. S.Gao、H.Liu、P.M.Davis、and L.Knopoff、Localized Amplification of Seismic Waves and Correlations with Damage due to the Northridge Earthquake、submitted to Bull.Seism.Soc.Am.、1995
  10. R.W.Graves、Preliminary Analysis of Long−Period Basin Response in the Los Angeles Region from the 1994 Northridge Earthquake、Geophys.Res.Letters、Vol.22、pp.101−104、1995
  11. A.Pitarka、and K.Irikura、Basin Structure Effects on Long Period Strong Motions in the San Fernando Valley and in the Los Angeles Basin from the 1994 Northridge Earthquake and an Aftershock、submitted to Bull.Seism.Soc.Am.、1995
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  13. S.Midorikawa and M.Matsuoka、Strong Ground Motion During the Hyogo−Ken Nanbu Earthquake of January 17,1995、submitted to International Sym.on Lessons Learned in Recent Earthquakes、1995
  14. D.J.Wald、A Preliminary Dislocation Model for the 1995 Kobe (Hyogo−ken Nanbu),Japan,Earthquake Determined from Strong Motion and Teleseismic Waveforms、Seismo.Res.Letters、Vol.66、PP.22−28、1995
  15. Y.Hisada、An Efficient Method for Computing Green's Functions for a Layered Half−Space with Sources and Receivers at Close Depths (Part 2)、Bull.Seism.Soc.Am.、Vol.85、PP.1080−1093、1995
  16. K.Aki、Seismic Displacements near a Fault、J.Geophys.Res.、PP.5359−5376、Vol.73、1968
  17. P.G.Somerville、N.F.Smith、R.W.Graves、 and N.A.Abrahamson、Accounting for Near−Fault Rupture Directivity Effects in the Development of Design Ground Motions、Pressure Vessels and Piping Conference、Vol.319、Seismic,Shock and Vibration Isolation、ASME 1995
  18. 武村雅之、震源近傍観測記録の解釈とその問題点、第19回地盤震動シンポジウム、日本建築学会、PP.17ー22、1991
  19. R.J.Archuleta、A Faulting Model for the 1979 Imperial Valley Earthquake、J.Geophys.Res.、Vol.89、PP.4559−4585
  20. 翠川三郎、1940年のエルセントロの強震記録の特性、構造工学論文集、Vol.34B、PP.15−22、1988
  21. 嶋本利彦、渡辺満久、鈴木康弘、ネフチェゴルスク地震断層と地震動によって倒れた樹木、日本地震学会ニュースレター、Vol.7、No.3、1995
  22. T.H.Heaton、J.F.Hall、D.J.Wald、 and M.W.Halling、Response of High−Rise and Base−Isolated Buildings to a Hypothetical Mw 7.0 Blind Thrust Earthquake、Science、Vol.267、pp.206−211、1995